2020年01月23日

「國立公園」誌:『上信越高原国立公園70周年に寄せて』

IMG_6328'.jpg表紙写真は支笏洞爺国立公園

(一財)自然公園財団発行の「國立公園」誌のNo.778(2019年11月号)に
掲載された記事(4p)です。

 苗場・谷川・菅平・志賀高原・浅間山・草津白根など、
上州・信州・越後にかけての広い公園が、
2019年9月で満70歳を迎えました。

 温泉地やウィンターリゾートのメッカなど、
早くから国民の保養地としての価値が認められていましたが、
これまであまり注目されていなかった部分を掘り下げてみました。

クロジ .jpg
チシマザサなどの多い山岳で繁殖するクロジ

 あーすわーむメンバーの筆者は、軽井沢から万座へ勤めていますが、
その途中、気候区が太平洋側から日本海側に入れ替わります。
一方で、水系は逆方向に入れ替わるります。
そんなことや、万座で発掘した、お宝ともいえる生物群集。

メススジゲンゴロウ.jpg氷河期の異存種といわれるメススジゲンゴロウ

現在の軽井沢では、国立公園内の森林より、
国立公園外の二次草原こそが、生物多様性のホットスポットです。
わずか数十年で、国立公園の内外で希少価値が逆転した現象や、
あーすわーむの仕事である、外来種の問題などにもふれています。

クロサンショウウオ卵塊.jpgクロサンショウウオの卵塊

また、2018年5月に開館したビジターセンター
「万座しぜん情報館」での、展示やイベントを紹介しています。

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さらに、国立公園の自然の豊かさばかり強調するあまり、
身近な場所にある二次自然を「見る価値のないもの」と
誤解されること勿れ、というメッセージを
教育的期待として込めました。
 



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2019年11月30日

ブナの時間

ブナの時間〜森のガイドのフィールドノート
(池田雅子 著/百年書房 すーべにあ文庫 ¥500+税)

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 同じ分野の研究や保全の世界でも、多くの情報がニッチを奪い合い、メッセージ合戦になりがちな昨今。本書は、力づくではなく、自然にブナの森へいざなう詩的な語りかけで始め、きわめてシンプルにメッセージを伝えています。
 あーすわーむメンバーで、森林セラピストでもある著者の言葉には、あくまでも科学的な観察眼で一つの森を見続けてきた裏づけがあり、森の癒し効果は「あとがき」に説得力があります。扉にある「森では、森の時間が流れる」という一文さえ、「あ、たしかに……」と、誰も反論できません。

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 著者自身の挿絵に導かれ、ブナの気持ちにもなれるし、戦争を省みる気持ちにもなり、気がつくと、もう本の半ばすぎ。。
 科学と感性を両立させた本書は、机に向かって読むのはもったいなく、旅のお伴にされるのをおすすめします。東京駅で発車前に鞄のポケットから取り出せば、小田原か静岡あたりまで、沿線の景色の記憶はなくなるでしょう(たとえば、です)。

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2016年07月15日

とちぎの野生動物

とちぎの野生動物 〜私たちの研究のカタチ
(關義和・丸山哲也・奥田圭・竹内正彦 編者/随想舎 ¥2,500+税)

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 栃木の自然と野生動物に40年以上関わってきた、宇都宮大学の小金澤正昭教授。本書は、教授の退官記念として、卒業生や関係の深い研究者たちが力を結集させて出版したものです。あーすわーむメンバーの一人も卒業生として執筆しました。
 タヌキは山奥でどう生きているか、コウモリの多様なくらし、シカとノウサギ、さらにマルハナバチとの関係など、「これぞ生態系!」と身を乗り出すほど興味深い話題が満載。野生動物と十把一絡げに言っても、キツネ、クマ、カモシカ、オオタカ、サル、イノシシなどの生態や、それぞれが置かれている現状、起こしている問題がさまざまであることが書かれています。動物に対して「保護」も「管理」も求められる今。動物を知り、人を知り、よりよい在り方を模索していこうとする決意が感じられる内容となっています。
 「堅苦しい研究論文なの?」と躊躇してしまう方、ご心配なく。動物への愛情や尽きない好奇心、自然を相手にすることの苦労などが、生の声で書かれています。先生や同級生とおしゃべりしながら、一緒にフィールド調査に行っている感覚で読めてしまいます。
 人から好かれ、動物から(ちょっぴり怖がられつつも)好かれている教授の人柄と情熱、それを囲む熱意ある人たちの成果をまとめた貴重な一冊。一緒にフィールドに出たつもりで楽しんでください!



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2013年10月31日

『動物を守りたい君へ』

『動物を守りたい君へ』
(高槻成紀 著/岩波ジュニア新書 ¥840)

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 2006年に岩波ジュニア新書から「野生動物と共存できるか」という本を出しました。わりあいよく読まれて現在6刷となり、この種の本としてはよく売れているということで、ありがたいことです。さらに、この本の文章が2つの中学生の国語の教科書に採用されました。まことに夢のようなことで、子供が好きだった私の父が生きていれば、どんなにか喜んでくれたかと思います。
 私は孫たちの将来を思うとき、日本人と自然との距離が遠くなることを心配しないではいられません。また、麻布大学に移ってから、学生とともにシカ以外の動物を調べるようになり、自分の知りたかったこと、示したかったことは、生き物のつながりにあったのだと気づきました。今回は、それらの思いを含めて、若い世代に動物を守ることの意味を考えてもらいたいと思いながら書きました。
 本書では、野生動物だけでなく、ペットと家畜のことも書きました。捨てられる犬のことや、毎日食べている魚や肉を動物の体の一部だと感じることがむずかしい時代になっていることへの懸念からです。もちろん動植物を調べることの喜びや体験についても書きました。そして、最後の部分で東日本大震災のことを取り上げ、太平洋戦争後、日本人が自然に対して傲慢になったことの結果があの原発事故であり、再稼働など絶対してはいけないという私の考えを書きました。ご一読いただき、感想をお寄せいただければ幸いです。




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2013年07月15日

夏休みの読書に

 日本では、毎日200冊の新刊本が出ているといわれます。その分、姿を消してゆく本も多いわけですが、今回は、時の洗礼を受けても色褪せていない二冊をご紹介します。科学者も人間であり、科学魂や科学的観察眼のベースになった自然体験や人間性が欠かせません。そんなことに思いをめぐらせながら、味わっていただけたらと思います。

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『働かないアリに意義がある』(長谷川英祐著/メディアファクトリー新書)
「働きアリのうち7割は働いていない」とご存知でしょうか?
 ではなんのために生きている? 今の進化論で説明できるの? 社会性昆虫の研究成果を人間社会にたとえながら、わかりやすく話を進めています。研究の裏話もおもしろく紹介されていますし、働いているアリの3割がいなくなったらどうなるか、といったユニークな疑問にも答えられています。
 生きものに関心を寄せる方全般、「働きアリのうち7割は働いていない」を理由に仕事をサボる方(?)にお勧めしたい一冊です。
<樋口 洋>

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『少年動物誌』(河合雅雄著/福音館文庫)
 昭和初期の丹波篠山で、弟と川で魚をつかみ捕った夏の日々。魚を入れるびくを忘れ、ムギツクという小魚を無理やり口に押し込む。ところが、つめ込みすぎてのどの奥にまで達し、最後には白目をむいて全部吐き出してしまう、ハチャメチャで野放図な姿。
 カメムシ、ミイデラゴミムシ(屁っぴり虫)、アゲハ幼虫など、あえて臭いものを飼育する。それは、敵とみなす隣集落のガキ軍団に、いつか一泡吹かせようと企んでいるからだ。その「毒ガス部隊」による「臭気の刑」の演習として、糞をまきちらして暴れ回るゴイサギ幼鳥(これも飼育中)へのおしおきを実践。戦い終えて負傷した「兵たち」を「よく頑張り抜いた」と拾い集めるが、その後には、経験したことのない虚しさも待っている。
 自然保護などという言葉がまったく必要でなかった幸せな時代。そこには遊びの創作という自由があり、遊ぶ友だちが無限にいた。その贅沢さには、読者も満腹になるほどだ。
 病弱で学校を休みがちだった少年期の著者が、こうした体験を経て、のちにどうなったか。それをまったく知らずに、わくわくしながら夢中でページをめくり続けた少年期の私も幸せであった。感受性豊かな子どもたちに読ませたく、今なお文庫として版を重ねられていることは嬉しい限り。
<石塚 徹>


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2012年05月12日

軽井沢のホントの自然

『軽井沢のホントの自然』
(石塚 徹 著・NPO法人 生物多様性研究所 あーすわーむ 協力/ほおずき書籍 ¥1,890)

 野道から山道、稜線から沢筋へと、すみずみまで足を運び、自分の目と耳で確かめた生きものたちの“今”。先入観を取り払い、純粋な好奇心・探求心と疑問・発見の連鎖反応で出来上がった一冊です。
 また、軽井沢の自然史・人類史をひもとくと、カミナリシギ、オカメドジョウ、アサマシジミ、アサマフウロなどが重要参考人として浮かび上がりました。噴火、飼馬、稲作奨励、減反、野焼き、リゾート開発……。2万年前、1200年前、そして1970年に、何があったのでしょうか。“森の町”の本当の自然遺産が田園地帯にあったとは!
 さらに、景観の中にある生きものたちの“ニッチ”や、進化の法則まで、多くのカラー写真で紹介しました。別荘ライフへの提言や、里山ブームへの警鐘も。そしてもう一つの大事なメッセージは、「きれいなもの、かわいいものだけを見て、大事に思っていませんか?」。

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2011年10月18日

『野生動物への2つの視点 〜“虫の目”と“鳥の目”』

『野生動物への2つの視点 〜“虫の目”と“鳥の目”』 
(高槻成紀・南正人 著/ちくまプリマー新書 ¥840)

 同僚の南さんとの共著で、南さんは金華山のシカのプライバしーに立ち入った研究事例を、高槻は同じシカでも植物との関係を紹介し、ひとつの動物でも視点が違えば異なる調べ方があり、それらを統合することでシカが立体的に理解できることを説明しました。そのほか学生との調査や展示活動のことなども紹介しました。全体を貫くのは「生き物へのレスペクト」です。

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「野生動物と共存できるか」

「野生動物と共存できるか」
(高槻成紀 著/岩波ジュニア新書 ¥819)

保全生態学を紹介するために、具体的な事例を紹介しながらやさしく解説しました。この本は中学や高校の入学試験の国語の問題としてよく引用され、2007年には全国で一番よく引用された本に選ばれました。表紙はツキノワグマの線画ですが、木村しゅうじ画伯による描きおろしです。

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『シカの生態誌』 

『シカの生態誌』 
(高槻成紀 著/東京大学出版会 ¥8,190)

 長年研究してきたニホンジカについて総括的な書物となりました。ひとつの哺乳類についてこれだけの本が書かれたのはサルを除いてはないといわれています。内容は自分の調べたシカの食べ物や植物との関係が主体ですが、共同研究者の南正人さんや大西信正さんの研究にもページを割いたほか、ニホンジカの遺伝学や日本の哺乳類の歴史や、人間社会と野生動物の問題などにも言及しました。東大出版会のNH(Natural History)シリーズのひとつとなったことを誇らしく感じています。

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『昆虫少年ヨヒ』

『昆虫少年ヨヒ』 
(石塚 徹 著/郷土出版社 ¥1,680)

現代の浅間山麓を舞台にした四季の動物誌で、児童書ですが、大人の方からも多く反響をいただいています。「アマツバメの秘境」「昆虫少年のロマン」「キリギリスの家出」「河童のしわざ」など全20章。キーワードは「地域の自然の全体像」です。130枚のカラー写真を添えました。
 “生きものの好きな人”にしか読まれない本を脱し、少しでも“それ以外の人”にも読んでほしいので、少年の成長を描く物語仕立てにしました。
 キリギリスはなぜメスばかり捕れるのか。なぜ夜だけカブトムシが来る木と、昼間もカブトムシがいる木があるのか。カナブンは夜、どこにいるのか。ある種のガはなぜ年によって大発生するのか。ヒメシジミはなぜ大草原の一部だけに発生しているのか。コクムドリはなぜ群れたがり、群れはなぜ分裂したがるのか。アカハラが減ってしまったのはなぜか。
 本書では、答えを出すことよりも、こうした素朴な疑問を持つこと自体が大切であると言っています。そして、小さな生きものたちの存在を認めることそのものが、豊かな生き方なのではないかと問いかけ、それが本書におけるもっとも重要な主張となっています。自由研究にも読書感想文にも活用していただけると思います。

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