(石塚 徹 著・岩本久則 絵/福音館書店「たくさんのふしぎ」2010年6月号 ¥700)
著者の博士論文「クロツグミのさえずりと配偶戦略」を絵本化したもの。鳥類研究者と研究対象、その両方の行動を描いたノンフィクション。前半は、主人公が鳥のさえずりを1羽1羽区別できるようになる、いわば魔法のアイテム「聞き耳ずきん」を手に入れるまでの物語。後半は、それを使って、鳥たちがいかに個性豊かに暮らし、あるときは利己主義的にメスを求めているかを調べ上げたストーリー。
複雑に絡まった毛糸のような自然も、本気で丁寧に調べれば解きほぐせるものです。小鳥のさえずりには、「遺伝によらない地域固有性」が確かにありました。その地域固有のさえずりはいつ、どのようにして発生したものか、またどのように伝播して行くのか、さらなる好奇心をあおられます。そして、動物たちが地域ごとに持つ「文化」的なものも、保全の対象と思えてきます。
難解な論文を解きほぐして書き直した点は、むしろ編集者の労作でした。子どもたちが自然を調べることの面白さに気づいてくれれば嬉しい限りです。