2011年10月18日

『ゆかいな聞き耳ずきん 〜 クロツグミの鳴き声の謎をとく』

『ゆかいな聞き耳ずきん 〜 クロツグミの鳴き声の謎をとく』
(石塚 徹 著・岩本久則 絵/福音館書店「たくさんのふしぎ」2010年6月号 ¥700)

 著者の博士論文「クロツグミのさえずりと配偶戦略」を絵本化したもの。鳥類研究者と研究対象、その両方の行動を描いたノンフィクション。前半は、主人公が鳥のさえずりを1羽1羽区別できるようになる、いわば魔法のアイテム「聞き耳ずきん」を手に入れるまでの物語。後半は、それを使って、鳥たちがいかに個性豊かに暮らし、あるときは利己主義的にメスを求めているかを調べ上げたストーリー。
 複雑に絡まった毛糸のような自然も、本気で丁寧に調べれば解きほぐせるものです。小鳥のさえずりには、「遺伝によらない地域固有性」が確かにありました。その地域固有のさえずりはいつ、どのようにして発生したものか、またどのように伝播して行くのか、さらなる好奇心をあおられます。そして、動物たちが地域ごとに持つ「文化」的なものも、保全の対象と思えてきます。
 難解な論文を解きほぐして書き直した点は、むしろ編集者の労作でした。子どもたちが自然を調べることの面白さに気づいてくれれば嬉しい限りです。

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『森の「いろいろ事情がありまして」』『鳥のおもしろ私生活』」

『森の「いろいろ事情がありまして」』
(ピッキオ編/信濃毎日新聞社 ¥1,680)
『鳥のおもしろ私生活』」
(ピッキオ編/主婦と生活社 ¥1,260)


 いずれも企画・構成・執筆は石塚徹。
 『森の……』は、美しい決定的瞬間を捉えた多くの写真でつづり、森の自然史を50話にまとめた科学読み物です。(1)自然を好奇心で縦横に分解すること、(2)種という枠でくくって見るのではなく、目の前にいる1個体が何をしようとしているのかを観察すること、(3)なぜ、このような姿や行動が進化してきたのかを想像しながら観察すること。この3つの視点を推奨しており、当時の新聞紙上では「自然の見方の哲学書」と評されました。
 『鳥の……』は、種類ごとの生態について、最新の学術トピックをおもしろおかしい漫画で擬人化に紹介したロングセラー図鑑です。「利己的遺伝子理論」が野外で楽しめる本をめざしました。10年後に書いた『森の……』では、むしろ「人が生きものの立場に立って見る視点」を勧めている点が異なります。

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